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高松地方裁判所 昭和46年(ワ)239号 判決 1973年1月26日

原告 高松臨港倉庫株式会社

右代表者代表取締役 山田勇三郎

右訴訟代理人弁護士 小早川輝雄

被告 日本警備保障株式会社

右代表者代表取締役 飯田亮

右訴訟代理人弁護士 大木一幸

右同 村上守

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告に対し三二三万七、九九三円及びこれに対する昭和四六年九月二六日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文第一、二項と同旨

第二当事者の主張

(請求原因)

一、原告は倉庫業を営む会社であり、被告は警備保障業を営む会社である。

二、原・被告間で、昭和四五年四月一三日左記の契約が成立した。

1 被告は原告に対し、2記載の警備対象倉庫にかかる火災・盗難・破壊・加害行為・不正及び不良行為を予防・発見・防止し、原告の人命・財産を保護するとともに、風紀・規律の維持に努め、業務の円滑なる運営に寄与し、その安全を保障することを目的として、警備業務を提供し、一ヶ月の警備料金を五万八、九八〇円とする。

2 被告が本契約に基づいて警備を行う物件は、原告の所有にかかる福岡町倉庫一五・一六・一八号、朝日町倉庫六号、木太町倉庫一号、春日町倉庫一・二号である。(以下本件警備対象倉庫と云う)

3 被告会社の警備担当員(以下単に警備員と云う)は、毎日午後七時より翌朝七時までの間、不定刻に五回本件警備対象倉庫の外周を巡回して警備を行う。

4 警備員は業務遂行中、施錠されていない扉・可燃性物・その他本件警備対象倉庫の敷地内の安全及び保護に影響ある事項により何らかの異常又は事故を発見した時は適切な処置をとり、勤務時間終了後原告に詳細に報告するものとする。但し警備員が極めて緊急を要するものと判断した時は直ちに通報するため相当の配慮をなすものとする。前記の異常又は事故は、被告が原告に提出する警備報告書に記載されるものとする。

5 警備員の過失行為により、原告に財産上の損害を加えた場合には金五、〇〇〇万円の限度内で被告会社は損害の補償をする。

被告は右契約に基づいて、本件警備対象倉庫を警備し、原告は被告に対して毎月警備料を支払っていた。

三、訴外小林義広外二名が昭和四五年七月六日午前一時ごろから約一時間に亘って本件警備対象倉庫の一つである高松市福岡町三丁目一番地所在の福岡町倉庫一六号(以下本件倉庫と云う)に侵入し、トラック一台を用いて、原告が三菱電機株式会社高松営業所より寄託を受けて保管していた三菱カラーテレビ三四台を窃取して逃走した。

右窃盗の態様は、本件倉庫外周塀表門にある鉄製横開扉(以下単に門扉とも云う)に鉄の鎖をかけ南京錠で施錠していたところ、その南京錠を破壊して鉄の鎖をはずし、右門扉を開いた上、倉庫正面のくぐり戸にとりつけたシリンダー鍵を切って倉庫内に侵入し、倉庫中央入口の扉を内側から開けて、トラックを倉庫内に入れ、前記テレビをトラックに積み込んで運び去ったものであり、犯人等の逃走後右門扉にかけていた鎖は切られたままで放置され、門扉は容易に開く状態であった。

四、右門扉の施錠の確認は、本件警備契約によれば当然被告の警備義務の範囲内の業務であるところ警備員は本件盗難事故発生当日の午前二時四〇分に右倉庫の外周を巡回した際、門扉の施錠の確認を怠った為にその異常に気づかず、従って原告会社に対して直ちに右異常を通報すべき義務も履行しなかったのである。

五、ところで警備員が右巡回の際門扉の施錠の異常に気づき、直ちに原告に通報していれば犯人を逮捕し原告の後記損害を防止出来る状況であった。即ち、本件警備契約に当り、警備員が異常を発見した際の通報方法については、原告会社倉庫部長山田勇方と原告会社宿直員のところへ何れも電話で通報することと定めていた。そして本件窃盗犯人らは本件被害テレビ三四台を犯行用トラックに積み午前二時頃前記倉庫を出ているが、警備員が前記二時四〇分に巡回の際門扉の異常に気づいて直ちに右山田に電話で通報すれば、同人は一〇分以内に現場に到着し、倉庫内を見ればカラーテレビ三〇余台が盗難にあっていること、車輪の跡からそれがトラックで持ち去られたことに気づき、警備員が異常を発見してから二〇分以内に警察へ届け出ることが出来たはずであり、従って午前三時頃には警察に於ける犯人検挙のための手配が出来たはずである。一方犯人らは犯行現場を離れてから高松市北浜所在の宇高フェリーの乗船場へ行き、そこで料金を確かめるなどして時間を費してから国道一一号線を徳島市へ向けて逃走し、同市内へ同日午前五時頃到着しているが、香川県境から徳島市内までの所要時間は自動車で約一時間であるから、警察が前記手配を開始した午前三時頃には犯人らは未だ香川県内に居たことは明らかであり、従って犯人の検挙は容易であったと云える。

六、本件被害テレビ三四台の中二台は徳島市で処分され、残り三二台は大阪へ運ばれて南海電機を経て生玉電業社へ売られ同電業社から内二台は互光電機商会へ、一台は何人かの手を経て三菱電機株式会社京都営業所へ、それぞれ売られ、四台は他へ処分したか未発見である。このため原告は次の如き損害を蒙った。

三菱電機株式会社高松営業所へテレビ四台分弁償 金四五〇、四〇〇円

互光電機商会から被害テレビの中二台買取り 金二〇四、〇〇〇円

生玉電業社から被害テレビの中二五台買取り 金二、二七七、〇〇〇円

回収した被害テレビの修理代 金三九、二三三円

三菱電機株式会社京都営業所から被害テレビの中一台買取り 金一二六、八〇〇円

引取交渉のための出張費(五回分) 金九八、〇六〇円

引取運賃 金三二、五〇〇円

右盗難事故により、原告会社の信用が落ち営業成績が低下したことによる損害 金八三〇、〇〇〇円

合計 金四、〇五七、九九三円

控除額、南海電機外一社より入金 金八二〇、〇〇〇円

差引損害額 金三、二三七、九九三円

七、よって原告は被告に対し、前記請求原因二項5の特約又は被告会社の債務不履行に基づき右損害金三、二三七、九九三円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四六年九月二六日から支払ずみまで商法所定の年六分の割合による金員の支払いを求める。

(請求原因に対する認否及び主張)

一、請求原因一、二項の事実は認める。

二、同三項の事実中訴外小林義弘外二名の犯人が原告主張の日時頃その主張の倉庫よりテレビ三四台をトラックに積込んで窃取逃走したこと、右犯行に当り、犯人らは倉庫正面のくぐり戸のシリンダー鍵を切っていたことは認めるが、その余の事実は不知。

三、同四項の事実中警備員が午前二時四〇分頃右倉庫を巡回したことは認めるがその余の事実は否認する。

四、同五項の事実は否認する。

五、同六項の事実は不知。

六、被告の主張

(一) 本件当夜警備員二名(二川司志、渡辺健)は、約旨に基づき、第一回午後八時三〇分(七月五日)、第二回午前零時二分(七月六日、以下同じ)、第三回午前二時三四分、第四回午前三時四八分、第五回午前五時二〇分の五回本件倉庫を巡回した。本件犯行は第二回巡回直後の午前零時過ぎから午前二時頃までの間に敢行されたもので、第三回巡回時には犯人らは既に逃走したあとであり、而も犯人らは倉庫荒しの常習者であって犯跡を残さぬよう細心の注意を払っていたので右巡回時には外周塀の門扉はきちんと閉められていて本件倉庫の外観には全く異常は認められなかった。原告は第三回巡回時に右門扉の施錠がなされていなかったことから、警備員は異常を察知して通報すべきであった旨主張するが、原告会社では従来から社員が夜間に倉庫に出入りしその際右門扉に施錠しないままであったことが屡々あったから、右事実は決して異常な事態とは云えず、従ってこのことから警備員に盗難の察知を期待することは無理である。

そもそも本件契約に於て被告の提供する警備作業は夜間(一九時より翌朝七時まで)不定刻に五回警備対象物件の外周を自動車で巡回して警備することであるが、被告は対価を得て右警備作業を提供することを業とする会社であるので、警備料金の多寡によりその提供する警備作業の内容にも相違を生ずることはやむを得ない。そして本件契約に於ては、警備料金は一ヶ月五八、九八〇円で、九個の警備対象倉庫を巡回警備するものである。右巡回警備は十数個の対象物件を一ブロックにして巡回するので警備員が毎巡回時に一々自動車から降りて対象物件を入念に点検することは時間的に不可能であり、この為例えば第一回巡回時には対象物件の半分について入念な点検を行い他の半分については自動車を徐行させて対象物件の外観より異常の有無を確認すると云う簡単な方法をとり、第二回巡回時にはその逆の方法をとる等の警備を行うのであって、これは従来から警備業界に於て、警備料金に見合った警備方法として一般に行なわれて来たところである。本件犯行当夜、担当警備員は第一回、第二回の各巡回時には本件倉庫につき自動車より下車して施錠の有無等につき入念な点検を行い、第三回巡回時には他の対象物件について入念な点検を行う必要上本件倉庫については自動車を徐行させながら異常の有無を確かめる方法をとったが、その時には前記の通り倉庫の扉も閉っていて他に荒された形跡もなく第二回巡回時と全く変化のない外観であった。

以上の如く本件警備契約に於てその対価の点から入念な警備方法と簡単な警備方法とを併用することが許される以上、警備員が第三回巡回時に簡単な警備方法をとったことを以て被告の債務不履行とは云えない。又第三回巡回時に自動車を徐行させて見た限りでは本件倉庫に何等の異常も発見出来ない状況であったものであるから、この時点で警備員が盗難を察知して何らかの措置をとらなかったとしても警備員に過失があったものと云うことは出来ないし、従って被告に債務不履行があったものとも云えない。

(二) 仮に警備員に何らかの過失があり又被告会社に警備契約上の債務不履行があったとしても、これと原告主張の損害との間には因果関係はない。即ち、本件窃盗犯人らは午前二時頃犯行を終えてトラックで徳島方面に向けて逃走し、その後盗品は大阪に運ばれて処分された。ところで警備員が本件倉庫を第三回目に巡回警備したのは前記の通り午前二時三四分であり、直ちに外周塀の門扉の鎖がはずされていることに気付き、倉庫内を見て盗難と判断するまでには少なくとも五分を要し、それから原告会社倉庫部長山田勇に連絡する為原告会社本社まで行き宿直員に事情を話して右山田に電話するまでに如何に早くとも一五分を要する。山田は右電話後約一〇分で本件倉庫に到着し、被害状況を調べ警察に連絡するまでに二〇分を要する。従って警察に通報出来るのは、午前二時三四分から五〇分後の午前三時二五分頃となる。通報を受けた警察官は二分位で警察署を出て自動車で約一〇分後に本件倉庫に到着し、関係者から事情を開き被害状況等を調べ緊急配備が必要か否かを判断するのに約一〇分を要し、現場から警察本部に通報してから一五分ないし二〇分位で、香川県と徳島県との県境より約四、五粁高松市よりにある国道一一号線上の引田検問所での検問が始まる。従って検問開始時刻は午前四時五分頃となる。尤も警察が通報を受けてから検問開始までの右所要時間は、当時高松北警察署勤務であった警察官香川信雄証人の証言によるものであるが、同証人は高松警察の優秀性を示す為右所要時間を最少限に述べていると考えられ、現実には尚多少の時間を要するものと考えられる。一方犯人は国道一一号線を徳島方面へ逃走したと仮定すると、高松市より前記引田検問所までの距離は約四〇粁であるから(高松市より県境までは約四五粁、徳島市までは約八〇粁)、犯人らは午前二時頃犯行現場を離れ、高松港のフェリー乗船場へ行ったりしているが、間もなく徳島に向けて逃走した。そして犯人らは倉庫荒しの常習者であるから引田検問所の存在は当然熟知していたと考えられ、又逃走心理から一刻も早く県外へ出たいと考えるであろうし、交通量の少ない深夜の国道であることを考えると、犯人らは時速七〇粁ないし八〇粁の速度で逃走したと推定されるから、遅くとも午前三時には引田検問所を通過していることは確実である。そうすると、仮に警備員が第三回巡回の際異常を発見して直ちに所要の連絡をとったとしても、本件の場合引田検問所で犯人を逮捕することは時間的に不可能であることが明白である。以上は犯人らが国道一一号線を通って徳島方面へ逃走したことを、犯行現場に到達した警察官に於て推定出来ることを前提としての推論であるが、現実には、警察官が現場に到着した当時、犯人らはどの方面へ如何なる経路を通って逃走したか等犯人捜査に必要な情報は殆んどない状況であったし(現在に於ても逃走経路は明らかではない。)、更に又本件程度の被害で警察本部が夜間に県下の全主要道路に於ける検問と云う大がかりな捜査体制をとったか否かも多分に疑問であって、何れの点からしても、警備員が異常を発見して直ちに必要な連絡をしたとしても、犯人らが徳島へ逃走するまでにこれを逮捕する可能性があったとは云えないのであるから、右盗難による損害と右警備員の過失ないしは被告の債務不履行との間には因果関係はないものと云うべきである。

(三) 仮に被告に何らかの責任があるとしても、原告主張の営業損害八三万円は本件事故に起因したものか否か不明である。又この点に関する≪証拠省略≫は原告会社内部に於て本件訴訟の為に作成されたものであって、全く信用性のないものである。

第三証拠≪省略≫

理由

一、契約の成立、事故の発生等

請求原因第一、二項の事実及び原告主張の日時頃訴外小林義弘外二名の犯人が本件倉庫よりトラックにテレビ三四台を積込んで窃取逃走したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、本件犯行当時、本件倉庫外周塀の門扉に鉄の鎖をかけ塀内の鉄杭頭部の輪に通して鎖の両端を南京錠で施錠していたところ、犯人らは右南京錠を破壊して鉄の鎖をはずし更に倉庫中央正面のくぐり戸に施錠していたシリンダー鍵の取手部分も切り取って壊した上(右取手を切り取ったことは当事者間に争いはない。)右くぐり戸から倉庫内に侵入し、倉庫中央入口の扉を内部から開けてトラックを倉庫内に入れ、原告が三菱電機株式会社高松営業所から寄託を受けて右倉庫内に保管中のカラーテレビ三四台を右トラックに積み運び出して窃取したものであることが認められ、これに反する証拠はない。≪証拠省略≫によれば右犯人らの逃走後右各扉は閉められていたものの、施錠はされてなく容易に開く状態にあり右門扉にかけられていた鎖ははずされたままの状態で放置されていたことが認められる。

二、被告の債務不履行

≪証拠省略≫によれば、被告会社の警備員渡辺健、同二川司志の両名は右盗難事故当夜(七月五日から翌六日早朝まで)合計五回本件警備対象倉庫のうち、朝日町倉庫六号、福岡町倉庫一五号、一六号(本件倉庫)及び一八号を他の契約者との契約に基づく警備対象物件(一三個所)と共に順次巡回警備したこと、右渡辺らは本件倉庫につき第一回巡回(二〇時〇八分頃)と第二回巡回(午前〇時三八分頃)の際には、自動車からおりて、門扉の施錠の点検等をして異常のないことを確認したこと、犯人らは第二回巡回後の午前一時頃前記の通り門扉及び倉庫の施錠をこわして本件倉庫内に侵入し、午前二時頃犯行を終えて右倉庫から逃走したこと、右逃走に当り倉庫中央の扉と外周塀の門扉を夫々閉めていたが、門扉の鎖ははずされたままで容易に開けられる状態であり、又倉庫正面のくぐり戸に取りつけていたシリンダー鍵も取手は切り取られたままの状態であったこと、ところが警備員渡辺らは第三回巡回(午前二時四〇分頃)の際、前回までの巡回に際し何ら異常のなかったことから、当回に於ても何ら異常はないものと軽信し、自動車を停めて車内から懐中電灯を照らして右門扉が閉っていることを確認しただけで、施錠の点検をおこたったため、右門扉の鎖がはずされていることや、シリンダー鍵の取手が切り取られていることに気付かなかったこと、第四回巡回時(午前三時五八分頃)にも前同様異常に気づかず第五回巡回(午前五時三八分頃)の際に初めて右事実を発見したが原告会社の従業員が所用のため右倉庫に入ったものと軽信し、原告に右事態を通報しなかったこと、以上の事実が認められる。≪証拠省略≫中「巡回計画」の表には、実施時刻欄に右巡回時刻と異る時刻が記載されているが、≪証拠省略≫によると、右記載は巡回計画の時刻であって、実際に巡回した時刻ではないことが認められるから、右認定の妨げとならないし、他に以上の認定に反する証拠はない。

ところで本件契約が、被告会社に於て原告所有の警備対象倉庫につき、火災、盗難等の予防ないし発見の為の警備業務の提供を内容とすることは前記の通り当事者間に争いのないところであり、成立に争いのない甲第一七号証(警備計画、見積書)によれば、警備隊の主要業務として各扉、窓の施錠の点検と確認が明記され、更に「要望事項及び協議事項」の欄に右施錠点検は警備上不可避事項であるから励行することに双方諒承する旨が特記されていることが認められるのであって、右事実からすると本件警備契約に於ては被告が警備対象倉庫の扉等の施錠の有無を点検、確認することは被告の警備業務の重要な事項をなしていたものと云うべきである。被告は、巡回警備に於ては警備料金が低廉であるところから、一回の巡回に多数の警備対象物件を巡回しなければならないので、各巡回毎に全対象物件について一々施錠の確認等をする時間的余裕がなく、状況に応じてこれを省略することも警備料金の低廉であることを考慮すれば許されるべきであると主張するが、施錠の点検を警備業務の主要な一内容として約定した以上、これを確実に実施出来るように警備計画を策定すべきであり、この為警備員の増員を要し、延いて経費の増加を招来するのであれば、それに見合った警備料金を顧客との間に約定すべきものであって、約定の警備料金の低廉を理由に右点検義務が一部でも免除されるものとは到底解されない。

そうとすれば本件事故当夜、被告の履行補助者である警備員渡辺らが第三回巡回警備に当り、犯行後の異常事態が前認定の通り明らかに存するのに、施錠の有無の点検を怠った結果これに気づかず、契約に定められた必要な措置(当事者間に争いのない請求原因二の4の措置)をとらなかったのであるから、右警備員らに警備上の過失があったことは明らかであるし、又被告に本件警備契約に基づく義務の不履行があったことは明らかである。

三、因果関係

(一)  犯人小林らは午前二時頃犯行を終えて本件倉庫を出たことは前認定の通りであり≪証拠省略≫によると犯人らはその後仲間の岡田某を待たしていた高松競輪場のそばにトラックを停めて、小林は岡田と安友をそこで待たせ、影石と二人でそこに停めていた小林の乗用車で高松市北浜の宇高フェリーボート発着場に行き料金を確めるなどして約一〇分後に右トラックの場所まで引返し間もなく小林は、岡田に右トラックを運転させて徳島市へ向わせ、自らは右乗用車に安田、影石の両名を乗せて高松市内の安田らの勤め先まで両名を送った後右トラックのあとを追い、途中で追付いて午前五時ごろトラックと共に徳島市についたこと、国道一一号線によった場合高松市より香川県と徳島県との県境までは四〇ないし五〇粁であり、同市から徳島市までは約八〇粁であること、右県境から四ないし五粁高松市よりの右国道上に、後記全県緊急配備の措置がとられた場合に警察官が検問に当る引田検問所があること、以上の事実が認められる。そして、右事実から、犯人小林らが午前二時一〇分頃に高松市を出発して国道一一号線を時速五〇粁程度で徳島市に向けて逃走したと仮定すると、右引田検問所を通過する時刻は午前三時ないし四時頃(高松市より計算すると午前三時頃、徳島市に到着した時刻より逆算すると同四時頃)となると考えられる。

(二)  一方≪証拠省略≫によると、

(1)  当日午前八時頃、原告会社倉庫部長山田勇が社員の連絡を受けて本件倉庫に行ったところ、倉庫内は水に濡れ(当夜は雨天であった)トラックのタイヤ跡があり、パレットも荒されていてカラーテレビ二〇台ないし三〇台がトラックによって持ち去られたと判断出来る状況であったので直ちに高松北警察署に電話で盗難の通報をしたこと、当時同署刑事課盗犯第一係長であった香川信雄は刑事四、五名と共に午前八時半頃現場に赴き、関係者から事情を聴取し、現場の状況を見分した結果、事案の内容から香川県全県の緊急配備をなすに適するものと判断したが、警備員が第五回巡回時(午前五時三八分頃)に既に施錠のこわされているのを発見していたとのことであり犯人逃走後三時間以上を経過しているものと判断されたので、右緊急配備の措置はとらなかったこと、全県緊急配備の場合は前記引田検問所を含む香川県下二四個所の配備個所に警官一三〇名ないし一八八名が配備されること。

(2)  本件契約当時原・被告間で警備員が巡回中、警備対象倉庫につき異常を発見し、極めて緊急を要すると判断される場合には、原告会社の宿直員と右山田宅(高松市多賀町三丁目一一番一五号)に電話で通報する約束であったこと、右山田が通報を受けた場合本件倉庫に一〇分以内に到着出来、前記の如き本件現場の状況からすれば到着後二〇分以内に高松北警察署に通報出来ること、当時同署の刑事宿直の警察官が右通報を受けて現場に到着し、事情聴取及び現場見分をして緊急配備の要否を判断し、県警察本部へ右配備方を連絡するのには、本件の場合約二〇分あれば可能であり右連絡を受けた本部司令室から県下各警察署に緊急配備を指令し、これを受けて各警察署から各配備部所に警察官が少なくとも一名配備について検問を開始するまでに約一〇分、全配備員の配備が完了するまでに約三〇分を要するが、遅くとも右指令後二〇分あれば各検問所に於ける検問を開始出来ること。以上の事実がそれぞれ認められる。そうすると仮に警備員が第三回巡回の際施錠の異常に気づき右(2)に認定の措置がとられた場合に警察官が引田検問所に於て検問を開始する時刻は第三回巡回時より約一時間一〇分を経過したほぼ午前三時五〇分ないし四時頃になると考えられる。

(三)  ところで犯人小林らの逃走した状況については前記(一)に認定した以外は不明であって、果して国道一一号線を逃走したものか否かはにわかに断定出来ないのであるが、仮に右国道を逃走したと仮定した場合でも、右(二)に認定の検問所に於ける検問が可能となる時刻とを比較すると、犯人らが右検問所を通過すると考えられる時刻のうち最も遅い時刻をとった場合にようやく犯人検挙の可能性があるが、それ以外の場合はその可能性は殆んどないと考えられるのみならず、犯人らが引田検問所を通過すると考えられる時刻自体も前記(一)の通り多くの不確定要素を含んで算出された極めて不正確なものであるから、これらの点を総合的に考察すると、本件の場合犯人を香川県内で逮捕し直ちに盗品を回収すると云う可能性はかなり少ないものと云わねばならない。

そうとすれば、仮に警備員が第三回巡回の際必要な注意義務を尽し約旨に従った措置をとっていたとしても、犯人小林らの窃盗行為による原告の損害を防止出来る蓋然性があったとはにわかに断定出来ないのであるから、前記二に認定の如き警備員の過失ないしは被告の債務不履行と原告の右損害との間に相当因果関係があると認めることは困難であると云うほかない。

四、そうすると右因果関係の存在を前提とする原告の本訴請求はその余の点についての審究をなすまでもなく失当であるのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 林義一)

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